デザイン思考

理論

デザイン思考とは、観察・共感から課題をみつけ、アイデアを生み、試作と検証によって解決策を導く人間中心の発想法。
デザイン思考は昔からデザイン業界では実践されてきたものだが、マーケティングやビジネスの領域で「理論」として言われ始めたのは 2000年代以降 とされている。

従来の調査や4P分析だけではイノベーションが生まれにくいという課題意識から、「観察・共感を起点とした発想法=デザイン思考」がマーケティングに取り入れられるようになった。
特に「潜在ニーズの発見」「生活文脈に即した価値提案」を重視する近年のマーケティングに直結する理論として定着。

 デザイン思考の基本プロセス

マーケティングの視点から整理すると、以下のように位置づけられる。

共感(Empathize)
生活者を観察し、現在のニーズのに加えて潜在的な欲求や課題を見つける。

定義(Define)
得られたインサイトをもとに、「解決すべき問題」を定義する

発想(Ideate)
多様なアイデアを自由に大量出す。マーケティング的には、広告表現から新規事業まで幅広い発想を含む。

試作(Prototype)
小さく形にして、早期にフィードバックを得る。広告コピーや商品コンセプトを簡易検証する段階。

テスト(Test)
消費者の反応を確かめ、改善を重ねる。PDCAに近いが、スピードと反復を重視する点が特徴。

 マーケティングとの関係性

デザイン思考は、マーケティングにおいて 「数字に現れにくいインサイトを発見する」考え方。従来の市場調査やデータ分析を補完し、顧客の本音や文脈を掘り起こすことで、より共感される商品・サービス・広告を生み出すプロセスと位置づけられる。

従来型調査との違い
マーケティング調査は定量データ中心で「既存のニーズ」を測定する傾向が強いのに対して、デザイン思考は、顧客が言語化できない潜在ニーズを観察と共感から掘り起こす点で補完的。

STPや4Pへの適用
STPを行う際に、定量では拾えない“生活文脈”を発見できる。
4P設計では、特にProductとPromotionにオリジナリティを加えられる。

顧客体験(CX)の重視
デザイン思考は「顧客体験」を全体設計の中心に置くため、CXマーケティングやブランド体験設計と親和性が高い。


マーケティングでのメリット

潜在ニーズを捉えた新商品開発
例:観察から「ながら消費」の習慣を発見し、片手で扱える飲料パッケージを開発。

生活者インサイトに基づくコミュニケーション設計
例:高齢者が「安心感」を求めていることを理解し、広告で“簡単さ”や“寄り添い”を強調。

高速検証による市場投入の効率化
小さな実験を繰り返すことで、大規模投資前に方向性を確かめられる。


デザイン思考を活用する具体例

デザイン思考をマーケティングに活用する例は以下のようなものがある

【商品開発】
使い捨てモップ
掃除機や雑巾ではカバーできない「ちょっとしたホコリを手軽に拭きたい」という潜在ニーズを観察から発見。試作品を繰り返して、片手で簡単に使える使い捨てモップを開発。
→ 従来市場になかった新カテゴリーを創出。
フレーバーつきミネラルウォーター
水分補給だけでなく「気分転換したい」という潜在的欲求を調査で掘り起こし、レモンやミントを加えた派生商品を展開。
→ 健康意識の高まりと「無糖フレーバーウォーター」市場を拡大。


【コミュニケーション】
ランニングアプリ
単にシューズを売るのではなく、「走る体験をもっと楽しくしたい」というユーザー心理に着目。アプリと連動し、ランニング体験をコミュニティ化。
→ ブランド体験の深化と継続利用につながる。

既存商品を子供に使いやすいシャンプーとして訴求
子どもの頭を洗う親の様子を観察し、「泡立ちやすさ」よりも「目にしみにくい・早く洗える」ことが重要と判明。
→ “親子で安心して使える”という訴求軸を確立。

 【サービスデザイン】
サードプレイス感を訴求するコーヒーショップチェーン
単なるコーヒー購入場所ではなく、「自宅でも職場でもない居心地の良い第三の場所」という体験を設計。
→ コーヒー価格競争ではなくブランド体験で差別化。

カーシェアリングサービス
車を所有したくない若年層の生活実態を観察し、「使いたいときにだけ利用したい」というインサイトからカーシェアリング事業を推進。
→ 所有から利用へというライフスタイルの変化に対応。


【デジタル施策】
動画配信サービスのレコメンド機能
「見たい作品がすぐ見つからない」という利用者のフラストレーションを解消するため、視聴行動データを観察・分析。
→ パーソナライズされた提案がUX向上と継続率向上に直結。

メッセージアプリのスタンプ
観察から「日本人は直接的な表現よりも絵やスタンプで気持ちを伝える傾向」を発見し、豊富なスタンプを提供。
→サービスの定着・収益源となる成功例。





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