AIDMA・AISASの法則

フレームワーク 用語 理論

「AIDMAの法則」と「AISASの法則」は、どちらもマーケティングにおいて顧客の購買プロセスを理解するためのフレームワークです。
どちらもマーケティング戦略を立てる上で、顧客がどの段階にいるかを把握し、それぞれの段階に最適な施策を検討する際の基本的な考え方です。

AIDMA(アイドマ)の法則

AIDMAは、以下の5つの心理・行動プロセスの頭文字を取ったものです。1920年代にアメリカの販売・広告業界で提唱され、主にマスメディア(テレビ、新聞、雑誌など)が情報伝達の主役だった時代に広く活用されました。

  • Attention(注意・認知):広告や店頭などで、顧客が商品やサービスの存在に気づく段階。
  • Interest(興味・関心):商品やサービスに興味を持ち、「もっと知りたい」と感じる段階。
  • Desire(欲求):興味から「欲しい」という感情が芽生え、購買意欲が高まる段階。
  • Memory(記憶):欲求が生まれた商品を、すぐに購入せずとも記憶に留めておく段階。
  • Action(行動):実際に商品を購入する、あるいはサービスを申し込む段階。
【特徴】
このモデルでは、企業が情報を発信し、顧客がそれを受動的に受け取るという一方通行の流れが基本となります。顧客の購買行動は、企業が提供する情報によって「記憶」され、最終的な「行動」につながると考えられています。


AISAS(アイサス)の法則

AISASは、以下の5つの行動プロセスの頭文字を取ったもので、日本の広告代理店である電通が2004年に提唱しました。これは、インターネットやSNSの普及によって顧客の購買行動が変化したことを反映した新しいモデルです。

  • Attention(注意・認知):広告やSNSなどで商品やサービスを知る段階。
  • Interest(興味・関心):商品に興味を持ち、さらに詳しく知りたいと感じる段階。
  • Search(検索):インターネットで商品名や関連情報を自ら検索する段階。
  • Action(行動):商品を購入する段階。
  • Share(共有):購入後の感想や評価をSNSなどで共有する段階。
【特徴】
AISASの最大の特徴は、顧客が能動的に情報を**「検索(Search)」する段階と、購入後に情報を「共有(Share)」**する段階が加わったことです。これにより、顧客は企業が提供する情報だけでなく、口コミやレビューを参考にしながら購買を決定し、さらに自らが情報発信者となって新たな顧客の「認知」につながるという循環が生まれます。


AIDMAとAISASの違い

AISASとAIDMAは、どちらも顧客の購買行動を段階的に示したものですが、その違いは顧客の行動様式と時代背景にあります。

AIDMA: マスメディアが主流の時代のモデル。顧客は情報を受動的に受け取ります。
AISAS: インターネット時代に対応したモデル。顧客は情報を能動的に検索・共有します。



近年のマーケティング構造とのズレ

インターネットやSNSが普及した現代において、AIDMAやAISASの法則は、顧客の複雑な購買プロセスをすべて説明するには限界があると言われています。
具体的に、ずれてきている(限界がある)と考えられるポイントは以下の通りです。

1. 購買プロセス
AIDMAやAISASは、AttentionからAction、またはShareまでの一本道で購買プロセスを捉えています。しかし、現実の顧客の行動は、より複雑で非線形です。

  • 情報収集の多様化: 顧客は、検索エンジンだけでなく、SNSのタイムライン、インフルエンサーの投稿、友人からのメッセージなど、複数のチャネルを同時に行ったり来たりしながら情報を集めます。
  • 比較検討の深さ: AISASの「Search(検索)」は一次的なものに過ぎません。実際には、価格比較サイト、レビューサイト、動画での使用レビューなど、何度も多角的に情報を調べ、比較検討するプロセスがあります。このため、より詳細なモデルとして「AISCEAS」という派生モデルも生まれています。
2.客の「能動性」と「受動性」
AISASは顧客の「検索」という能動的な行動を重視しました。しかし、現代では、顧客は意図的に検索していなくても、アルゴリズムによって最適化された情報や、SNS上の偶然の投稿を通じて、受動的に新しい商品と「遭遇」する機会が増えています。

  • 「情報回遊」: 目的なくSNSやYouTubeをサーフィンしているうちに、偶然魅力的な商品に出会うという行動です。この「偶発的な出会い」は、AISASでは捉えきれない新しい購買のきっかけとなります。
3. 共有後の動き
AISASは「Share(共有)」を最後のステップとしていますが、現代では、この「共有」された情報(口コミやレビュー)が、新たな購買サイクルを生み出します

  • 「ファン化」の重要性: 一度購入して終わりではなく、長期的な顧客との関係構築やロイヤルティ(ブランドへの愛着)をいかに高めるかが重要になっています。AISASでは、その後のリピート購買やブランドロイヤルティのプロセスは十分に説明できません。

AISASやAIDMAは、マーケティングの基本的な考え方として今も有効ですが、ネットやSNSが高度に発達した現代の顧客の行動は、これらのシンプルなモデルでは説明しきれないほど複雑化しています。

そのため、現在ではより詳細な顧客の感情や行動を可視化する「カスタマージャーニー」の考え方や、AISASをさらに細分化した「AISCEAS」、SNSでの「共感」や「拡散」を重視した「SIPS」といった、新しい時代のモデルが次々と登場しています。



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